リビア世界遺産ガダーミスが危機遺産解除された理由とは

しかし、2025年。世界は再びこの地に注目しました。国際支援と地域の人々の尽力により、ユネスコはついにガダーミスを危機遺産リストから解除する判断を下したのです。

この記事では、ガダーミスの危機と再生の道のりをたどりながら、

「そもそも危機遺産とは？」、「なぜ解除されたのか？」、「他にはどんな危機遺産があるのか？」まで、やさしく・深く解説します。

こちらの動画は英語ですが字幕がついています。

ガダーミスとは？リビアの「砂漠の真珠」と呼ばれた都市

ガダーミスは、リビアの砂漠地帯にひっそりと佇む古代都市です。ユネスコの世界遺産にも登録されたこの都市は、「砂漠の真珠」と称されるほど美しく独自性にあふれています。

紀元前から交易の要衝として栄えたガダーミス。ベルベル人の文化に始まり、ローマ支配、アラブ・イスラム文化の影響を受けながら独自の都市構造を発展させてきました。今なお残る街並みは、時代と文化が交差する貴重な証しです。

• ユネスコ世界遺産に登録された理由
• アラブ・ベルベル・イスラム文化の融合

ガダーミスは都市計画と建築様式の面で、アラブ・イスラム世界でも極めてユニークな位置づけです。オアシス都市としての機能を保ちつつ、独自の住居デザインと公共空間が形成されてきました。

では、まずはユネスコがこの都市にどんな価値を見出したのか、そして建築様式の魅力に迫っていきましょう。

ユネスコ世界遺産に登録された理由とは

一見、ただの砂漠の中の町に見えるガダーミス。しかし、1996年にユネスコの世界遺産に登録されて以降、その建築と都市構造の価値が世界に広まりました。

登録の大きな理由は、極限環境で築かれた都市設計の巧みさと、人々の暮らしと調和した建築です。厳しい日差しを遮る屋内通路、白く塗られた壁、涼しい中庭。こうした仕組みは、自然と共存する知恵の結晶といえるでしょう。

さらに、都市全体が1つのコミュニティとして機能し、住民同士のつながりを大切にする構造も評価されました。まさに「生きた文化遺産」なのです。

アラブ・ベルベル・イスラム文化が融合した建築美

ガダーミスの家々は、白い漆喰で塗られたファサードと幾何学模様の装飾が特徴的です。これらはベルベル文化の素朴さとイスラム芸術の繊細さを併せ持ちます。

たとえば、家の内部には女性専用の空間があり、女性同士が屋内通路を通って移動できる設計が施されています。これはアラブの伝統的価値観と都市機能が融合した構造であり、宗教的規範と生活のバランスを保っています。

中庭にはヤシの木の陰と風の通り道が確保され、まるで「自然の冷房」のような空間。砂漠に暮らす人々が、長い時間をかけて磨き上げた住まいの知恵です。

なぜ危機遺産リストに載ったのか

かつて世界的に称賛されたガダーミスの街並み。しかし、時代の荒波はこの静寂な都市をも飲み込みました。2016年、ユネスコはガダーミスを「危機遺産リスト」に登録します。

理由は明確で、保護が不可能な状態に陥っていたからです。リビア国内の情勢不安、そして都市そのものの荒廃。歴史的建造物が無人化し、無秩序な損壊にさらされていました。

• リビア内戦による文化遺産の危機
• 管理不能と保護体制の崩壊がもたらした影響

それでは、なぜここまでガダーミスの文化遺産が危機に瀕したのか。背景にある政治的・社会的な要因を深堀りしていきましょう。

リビア内戦による文化遺産の危機

2011年のアラブの春を皮切りに、リビアでは内戦状態が長く続いています。政府が分裂し、武装勢力が各地を支配するようになったことで、国の統治が崩壊しました。

ガダーミスは戦闘地域から離れていたものの、国家の支援が完全に止まり、遺産保護の仕組みが機能しなくなっていきました。外部からの観光も断絶し、住民は都市を離れるしかありませんでした。

一例として、2015年にはガダーミス旧市街の一部が略奪され、文化的装飾が破壊される事件も報告されています。もはや「保存どころではない」状況だったのです。

管理不能と保護体制の崩壊がもたらした影響

リビア国家の機能不全は、文化遺産保護に直結する行政機関や法制度をも無力化しました。保存計画や修復予算は停止。現地に残された少数の住民も、日常生活の維持で手一杯です。

さらに、定期的なメンテナンスが不可能となったことで、屋根や壁は風化。特に夏季の砂嵐や冬季の雨によるダメージが深刻化し、建物の一部が倒壊するケースも増加しました。

これらの状況を受けて、ユネスコは2016年、「保護の実行が不可能であり、重大な損壊リスクがある」として、正式に危機遺産リストに加えたのです。

危機遺産からの解除理由とは

絶望的だった状況を乗り越え、ガダーミスは2023年に「危機遺産リスト」からの解除が正式に決定されました。この発表は、世界中の文化遺産保護に携わる人々にとって、大きな朗報となりました。

なぜこの都市が再評価され、危機遺産リストから除外されたのか？その背景には、国際的な修復プロジェクトと地域住民の粘り強い取り組みがありました。

• 修復活動・保護プロジェクトの成果
• ユネスコによる再評価の決定要因

次の章では、解除に至った過程を具体的に紐解きます。どんな活動が現場で行われ、どのようにユネスコが「もう危機ではない」と判断したのかを追っていきましょう。

修復活動・保護プロジェクトの成果

2020年頃から、リビア文化省とユネスコ、さらにチュニジアやイタリアの専門家チームが共同で、ガダーミス旧市街の修復に本格着手しました。

特に焦点を当てたのは、倒壊の危険がある住居や通路、雨水排水システムの再構築。現地の伝統工法を尊重しつつ、災害に耐える素材や工法も取り入れながら修復が進められました。

また、住民が再びガダーミスに戻るための生活インフラ整備も並行して実施。電力供給や清掃システムの整備は、文化遺産としてだけでなく「暮らしの場」として再生するために不可欠な工程でした。

ユネスコによる再評価の決定要因

ユネスコの現地視察団は2023年初頭にガダーミスを訪れ、修復の進捗と保護体制の整備状況を確認しました。その結果、「危機の要因は十分に軽減された」と判断され、正式な解除が勧告されました。

重要なポイントは、物理的な修復だけでなく、保護の持続可能性が確保されたこと。たとえば、現地に文化遺産管理委員会が再設置され、定期的な維持管理体制が整いました。

ユネスコは、地域社会の関与が再び活発になり、文化遺産としての価値が将来にわたって守られると確信したのです。

危機遺産リストとは？仕組みと登録・解除の基準

ユネスコの「危機遺産リスト」とは、世界遺産の中でも特に破壊や損壊の危険性が高いものを明示する特別なリストです。正式名称は「危機にさらされている世界遺産一覧（List of World Heritage in Danger）」。

登録されると、国際的な支援や注目が集まり、保護活動が促進される仕組みになっています。つまり、「危機遺産＝失敗」ではなく、救済への第一歩とも言える制度なのです。

• 危機遺産リストの役割と意味
• 世界の最新「危機遺産」対象一覧【2025年版】

ここでは、危機遺産リストの意義や登録・解除の基準、そして2025年時点での最新リストにどんな遺産が含まれているかをご紹介します。

危機遺産リストの役割と意味

危機遺産リストの主な役割は、「世界遺産の存続に対する国際的な警鐘を鳴らすこと」です。自然災害、戦争、都市開発、気候変動などにより、保全が難しくなった遺産が対象となります。

登録されると、次のような効果があります：

• 国際社会からの注目と支援を集めやすくなる
• 緊急保護のための資金・人材支援が可能になる
• ユネスコが直接関与して現地の調整を行える

一方で、解除には「実質的な改善」と「持続可能な保護体制」が求められます。表面的な修復だけでは不十分で、制度的・社会的な裏付けが必要なのです。

世界の最新「危機遺産」対象一覧【2025年版】

2025年現在、ユネスコが指定している危機遺産は50件以上にのぼります。ここでは代表的な例を地域別にいくつかご紹介します。

• アフリカ：ティンブクトゥ（マリ）／アスム遺跡（エリトリア）
• 中東：シリア旧市街群（アレッポ、ダマスカスなど）／ヘブロンの旧市街（パレスチナ）
• アジア：アフガニスタンのジャームのミナレット／モヘンジョダロ（パキスタン）
• 欧州・南米：ウクライナのリヴィウ旧市街／コロンビアのロス・カティオス国立公園

これらの遺産は、紛争や自然災害、環境破壊といった深刻なリスクにさらされています。世界が共同で保護すべき「人類の宝」として、注視されているのです。

ガダーミスの保護はなぜ成功したのか

危機遺産に登録されたガダーミスが、なぜ再びその価値を世界に認められたのか――。その鍵は「国際社会の協力」と「地域住民の力」です。

修復は建物だけでなく、地域の絆と誇りも取り戻すことに成功しました。保護活動が一過性のものに終わらなかった理由を、具体的に見ていきましょう。

• 国際協力と地域住民の連携による成果
• 文化遺産保全の成功モデルとしての意義

ガダーミスの事例は、今後の世界遺産保護のヒントにもなります。持続可能な文化保全の理想形とはどのようなものか、2つの視点から考察していきます。

国際協力と地域住民の連携による成果

外部の専門家や国際機関だけでは、ガダーミスを救うことはできませんでした。現地の人々が「自分たちの町を取り戻す」という強い意志を持って行動したことが、成功の原動力です。

たとえば、地域住民が自発的に修復講習に参加し、古来の工法を再学習。住民が「守り手」として加わることで、文化遺産への愛着と責任感が高まりました。

また、修復プロジェクトに若者を積極的に巻き込み、技術だけでなく「誇り」を継承する仕組みも構築。こうした土台が、再発的な荒廃を防ぐ力になっています。

文化遺産保全の成功モデルとしての意義

ガダーミスは、単なる修復事例ではありません。政治的混乱の中でも、国際支援と地域の力を融合させれば、文化遺産は守れることを証明した「モデルケース」なのです。

世界遺産を守るには、政府やユネスコの決定だけでなく、現地の人々の声と手が必要。ガダーミスでは、文化を守るプロセスそのものが、住民の誇りと生活の再生へとつながりました。

この成功は、今まさに危機にさらされている他の遺産にも「希望」を届けています。文化遺産保全の新しい形として、多くの国や都市がガダーミスを手本にし始めています。

まとめ｜危機遺産から復活したガダーミスの今を知る

ガダーミスがなぜ危機遺産リストに載り、そして解除されたのか――本記事では、その背景とユネスコの判断基準を体系的に解説しました。

内戦による文化財へのリスクから始まり、国際的な修復支援と住民の協力により「砂漠の真珠」は危機を脱しました。

危機遺産リストとは何か？どんな基準で登録・解除されるのか？世界遺産の今を知ることで、文化遺産保全の意義がより深く見えてきます。