水路に沿って風車が並び、その向こうに平らな土地が広がっています。オランダのキンデルダイクは風車のある風景で知られる世界遺産です。
のどかなに感じるこの風車には、人が暮らし、農地を使い続けるための仕事がありました。
それは水をくみ出すことです。
これまで紹介した世界遺産では、水を確保して必要な場所へ届ける工夫に注目してきました。
今回の記事は、低い土地に集まる余分な水を、外へ出す仕組みがテーマです。風車・水路・水門・ポンプ場がどうつながるのかを水インフラの現場経験と世界遺産検定マイスターの視点から見ていきます。
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【オランダの世界遺産】キンデルダイクの風車群とは?
正式名:キンデルダイク=エルスハウトの風車群
保有国:オランダ
登録年:1997年
登録基準:ⅰ、ⅱ、ⅳ
その他:風車は観光名所じゃない。水と闘い、土地を守ってきたオランダ人の知恵そのもの。
ここには19基の風車が残り、水路や堤防、貯水施設、ポンプ場、水門などとともに、土地を排水する仕組みを伝えています。

写真: Travelinho / travelinho.com / CC BY-SA 4.0
名前からは風車だけが主役に思えますが、世界遺産として重要なのは周辺の土地を含む水管理の全体像です。
風車が回り、その力で水が移動する。移動した水は別の水路や貯水施設に入り、さらに外へ排出される。そのつながりによって人が暮らせる土地を保ってきました。
堤防があってもなぜ排水が必要なのか
キンデルダイクのあるアルブラッセルワールト地方は、もともと大きな川に囲まれた湿地でした。人々は溝を掘り、堤防を築き、水を排出して土地を利用してきました。
堤防は外から水が入るのを防ぐために重要です。ただ、堤防で囲めば、内側の水がすべてなくなるわけではありません。
地面を通して水がしみ込み、水がたまれば、農地や暮らしに影響が出ます。
そこで必要になるのが排水です。
踊り子ちゃん排水という救世主!
堤防で囲まれ、水位を管理する土地は「ポルダー」と呼ばれます。ポルダーでは、外の水を防ぐ設備と、内側の余分な水を出す設備の両方が働いています。
僕が関わってきた水門などの設備を考えるときも、水を止める役割だけでは、その施設全体を理解できません。どちら側の水を、どんな条件で通すのかが大切です。
水は低いところから勝手には出ていかない



そんなこと私でも踊りながらしってるわ♪
水路を掘れば水は外へ流れていく。そう考えたくなりますが、そのためには高さの条件があります。
内側の水面より、排水先の川の水面が低ければ、自然に流せる場合があります。反対に、川の水位が高ければ、同じ方法では水を出せません。水門を開けることで、外の水が入ってくる可能性もあります。
さらにこの地域では地盤の沈下などによって、自然に排水することが難しくなっていきました。
そこで、水をより高い位置へ持ち上げる力が必要になります。その動力として使われたのが風でした。
風車は、風を受けて回る羽根の力を、歯車などを通して揚水装置へ伝えます。水をすくい上げる車輪などを動かし、低い側の水を高い側へ移していたのです。
見上げるほど大きな羽根の回転が、足元の水の移動につながっていました。
風車は水をどこへ送っていたのか
キンデルダイクの風車は、すべてが直接海へ水を放出していたのではなく、水路や貯水施設を経由して、段階的に水を外へ送る仕組みの中で働いていました。
資料を読むと、ネーデルワールトの風車群は、低い側に集まった水を高い位置にある貯水域へくみ上げる役割を担ったようです。その水は条件が整ったときに川へ排出します。
高い貯水域には水を一時的に待たせる役割もあります。川の水位が高く、水門から排出できない間も、内側の余分な水を受け止めるためです。
「水を集める」「持ち上げる」「一時的にためる」「外へ出す」。
一つひとつの働きがつながって地域の排水になります。風車はその流れの途中で、水の高さを変える仕事をしていました。
なぜ風車が何基も並んでいるのか


写真: Travelinho / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0
広い地域の水を扱うには、それに対応する揚水能力が必要です。キンデルダイクでは、複数の風車を水路や貯水施設と組み合わせて使ってきました。
ここでは、キンデルダイクの全19基のうち、ネーデルワールトとオーフェルワールトにある各8基、計16基の並び方を比較します。
| 比較項目 | ネーデルワールト | オーフェルワールト |
|---|---|---|
| 風車の数 | 8基 | 8基 |
| 並び方 | 位置をずらして配置 | 直線的に配置 |
| 配置の理由 | それぞれの風車が風を受けやすくするため | 風車を建てる堤の幅が狭いため |
風車の並び方には、風を受けやすくする工夫や堤の幅といった場所の条件が表れています。水路の位置に合わせながら風の力を使って水を汲み上げられるように配置されているのです。
風車からポンプへ変わっても排水には水路や水門との連携が欠かせない
風を動力にすれば燃料を使わずに水をくみ上げられます。でも、必要なときに必要な風が吹くとは限りません。
この問題に対して、キンデルダイクでは19世紀に蒸気動力の揚水施設が加わりました。その後、ディーゼルや電気を使う設備へと技術が変化していきます。
現在の排水は近代的なポンプ場が主に担い、歴史的な風車は保存・運転されながら、技術や暮らしを伝えています。風車と新しい設備が共にある景色は、水を管理する仕事が今も続いていることを示しています。



蒸気の動力になったら風が弱くても排水できるね♪
問題解決?
いいえ、動力が変わり風を待たずにポンプを動かせるようになっても、それだけで排水の問題がすべて解決するわけではありません。
地域の水位を管理するには、ポンプの能力とともに、水を送り出す先の状態や、一時的にためておける量も考える必要があります。
水路や貯水施設、水門までつなげて見ることで、歴史的な風車と現在のポンプ場が、連続性のある「ひと続きの仕事」を担ってきた設備として見えてくるのです。
世界遺産マイスターとして見たい「働く景観」
キンデルダイクの登録基準(i)では、排水によって土地を利用し、守ってきた人々の創意が評価されています。(ii)では、他の地域にも広がったオランダの排水技術の発展。(iv)では、居住と農業を可能にした水管理システムと、その景観が重視されています。
美しい風車が集まっているだけでなく、風車と土地の間に機能的な関係が残っていることが重要です。
水路は水を集めて運び、堤防は水を隔て、風車やポンプ場は水を移動させる。その組み合わせが、目の前の景色をつくっています。
また、水はジャガーやクマといった生物と同じように国境や土地の境界で止まってくれません。自分の場所だけ排水すればよいとは限らず、地域で設備を維持し水を管理する必要があります。
世界遺産に水管理組織の建物も含まれていることは、施設を動かす人や仕組みの重要さを感じさせます。
まとめ:風車の役割は暮らしを守ること
キンデルダイクに風車が並ぶのは、低い土地の余分な水をくみ上げ、外へ排出するためでした。風車だけでなく、水路や貯水施設や水門がつながって、その仕事を支えていました。
水を手に入れる技術もあれば、水を出す技術もあります。
どちらも人がその土地で暮らし続けるための工夫です。
もし現地を訪れたら、風車の羽根を見上げたあとで、足元の水路を見てみたいです。どちらの水面が高く、この水はどこへ向かうのか。その違いを探しながら歩くと、風車のある景色が少し違って見えると思います。






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