池の中から、空へ向かって勢いよく水が噴き上がる。その高さは約50メートル。
これほど大きな噴水を見ると、強力なポンプで水を押し上げていると思うかもしれません。
ところが、ドイツの世界遺産ヴィルヘルムスヘーエ公園では、高低差を利用して、この水の演出を生み出しています。
山の斜面を流れ落ちる水が、滝になり、しぶきを上げ、最後には高く噴き上がる。
公園全体が、水の動きを見せる舞台になっています。
この記事では、水システムの中でも、高低差と水圧を利用して滝や噴水を動かす「水を見せるための設備」に注目します。
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山の斜面に広がる水の舞台
ヴィルヘルムスヘーエ公園は、ドイツ中部の都市カッセルにあります。
正式名:ヴィルヘルムスヘーエ公園
保有国:ドイツ
登録年:2013年
登録基準:ⅲ.ⅳ
ヘッセン=カッセル方伯カールが1689年から整備を始め、その後の時代にも拡張されました。
高い場所には、公園を見下ろす巨大なヘラクレス像。その下から、階段状の水路や滝が斜面に沿って展開します。
水を使った演出は「ヴァッサーシュピーレ」と呼ばれ、公園を代表する見どころです。
ここで面白いのは、庭園の中に噴水が点在しているだけではないことです。高い場所から低い場所へ向かう地形そのものが、水の動きを生み出す仕組みに組み込まれています。
水が流れる道と、人が景色を楽しむ道。その二つを重ねながら、公園がつくられているのです。
ポンプの代わりに高い場所の水を使う
ヴィルヘルムスヘーエ公園の水の演出を支えているのは、「高い場所から低い場所へ流れる」という水の性質です。
公園上部の貯水施設から水路や管を通して水を送り、高低差による重力を利用して、階段状の水路や滝などを生み出しています。
つまり、基本的にはポンプで水を押し上げる必要がありません。
ただし、「自然の力に任せている」だけではありません。水をためる場所や通り道、流れを調整する設備を整え、高低差の力をどこでどう使うかを人が設計しています。
自然の力を利用しながら、人の技術によって水を「狙った風景」へ変える。そこに、ヴィルヘルムスヘーエ公園の水の仕組みの面白さがあります。
下へ流れる水がなぜ上へ噴き上がるのか?
滝の水が下へ落ちるのはわかります。では、大噴水の水はなぜ上へ飛び出すのでしょうか?
その秘密も、実は「高低差」にあります。
大噴水には、噴出口より約80メートル高い位置にある貯水池から水が送られます。高い場所から低い場所へ流れようとする水の力を管で導き、最後の出口を上向きにすることで、水を空へ噴き上げているのです。
ただし、高低差がそのまま噴水の高さになるわけではありません。管の摩擦や曲がりなどで力が失われるため、管や噴出口の設計も重要になります。
水は下へ流れようとしている。その力を利用して、水を上へ飛ばす。約50メートルの大噴水は、そんな重力と人の技術がつくり出した景色なのです。
水が姿を変える?って本当?
ヴァッサーシュピーレでは、各所の演出が順番に行われます。
ヘラクレス像の下にあるカスケードでは、水が幾段もの段差を下ります。その先にはシュタインヘーファーの滝、悪魔の橋、水道橋などの見どころが続き、最後に大噴水が立ち上がります。
来園者は斜面を下りながら、異なる水の姿を楽しめます。
段差を連続して流れる水。岩にぶつかって砕ける水。高い場所から落ちる水。そして、空へ伸びる水。
水量や落差、流れる面の形が変われば、見た目も音も変わります。同じ水という素材から、違う場面をつくり出しているのです。
ただし、見学順路に沿って見える水のすべてが、一本の水路をそのまま流れ、最後に噴水へ入るという単純な構造ではありません。大噴水には専用の貯水池から給水するなど、複数の設備が演出を支えています。
観客に見せる流れと、その裏側で水を届ける仕組みを分けて考えると、この公園の設計がより面白くなります。
なぜヴィルヘルムスヘーエ公園を作ったのか?
水を使った庭園は、心地よい場所をつくるためだけのものではありませんでした。
当時の支配者にとって、大規模な庭園や水の演出は、自らの富と力を示す手段でもありました。
水を集め、遠くへ導き、流れを変え、巨大な噴水を立ち上げる。そのためには、土地や資金、技術、働く人々を動員する力が必要です。
来訪者が目にする水の迫力は、そうした力を目に見える形にしたものでもありました。
高所に立つヘラクレス像と、その下で展開する水の景観。世界遺産としては、この組み合わせがヨーロッパの絶対主義の時代を伝える点も評価されています。
美しい、すごい、と感じる風景の背後に、それをつくらせた人の意図があります。そこまで読むことが、世界遺産を見る楽しさの一つです。
見えない設備も主役になる
僕がこの公園で気になるのは、華やかな噴水を支える貯水池や管の方です。
噴水が高く上がるには、必要な水位と流量がそろわなければなりません。水路が詰まったり、管から水が漏れたりすれば、予定した姿にならないこともあります。
また、設備の目的が「水を見せること」なら、単に水が届くだけでは十分ではありません。
どこから流れ始めるか。どれほどの勢いで出るか。どのくらい続くか。それらがそろって、初めて演出になります。
水インフラの働きを評価する基準が、ここでは景色や体験につながっているのです。
飲み水を届ける施設でも、噴水を動かす施設でも、水位、流量、圧力を扱うという基本は共通しています。その技術を何のために使うかによって、つくられる風景が変わります。
水の動きまで受け継ぐ世界遺産
ヴィルヘルムスヘーエ公園では、歴史的な水の演出が今も行われています。
僕は石造りの設備だけでなく、水が動いたときの姿を見られることに大きな魅力を感じます。
水が流れていないときにも、階段や岩場、池はそこにあります。しかし、水が加わると、音やしぶき、動きが現れ、場所の印象が変わります。
この庭園では、水が作品の一部なのです。
空へ伸びる大噴水を見たら、その水がどこから来たのかを考えてみる。高い場所の貯水池と、そこから続く管を思い浮かべると、驚きの中に技術が見えてきます。
自然の高低差を読み、水を集め、その力を人に見せる。ヴィルヘルムスヘーエ公園は、水インフラが芸術や権力の表現にもなったようにも感じます。
- UNESCO世界遺産センター「Bergpark Wilhelmshöhe」
登録情報、整備の歴史、水の演出と絶対主義の関係。 - Hessen Kassel Heritage「Water Features」
公園を管理する機関による、ポンプを使わない水の演出と見学の流れの解説。 - カッセル市「Wasserspiele Station 6 Große Fontäne」
大噴水の貯水池、給水管、高低差を利用する仕組み。 - カッセル公式観光サイト「Sequence of the Water Features」
カスケードから大噴水へ続く、各演出の紹介。


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