なぜ富士山は文化遺産でトンガリロは複合遺産なのか?聖なる火山の何が違うの?

富士山では、山頂を目指して登ることが信仰の一つの形になりました。一方、ニュージーランドのトンガリロ国立公園では、聖なる山への敬意として山頂に登らないよう訪問者に求める案内があります。

踊り子ちゃん

どちらも火山なのに向き合い方が違うのね♪

世界遺産の区分も、富士山は文化遺産でトンガリロは自然と文化の両方を評価する複合遺産です。この違いは、どこから生まれるのか……

この記事では、二つの火山に息づく信仰と、世界遺産として評価された価値を比較します。「聖なる山」という共通点から、それぞれの山と人の関係をたどります。

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目次

【聖山】二つの火山は何が世界遺産として評価されたのか

比較する点富士山トンガリロ国立公園
所在地日本・山梨県、静岡県ニュージーランド北島中央部
登録年2013年1990年。1993年に文化的価値を追加
遺産の区分文化遺産複合遺産
登録基準(ⅲ)(ⅵ)(ⅵ)(ⅶ)(ⅷ)
文化面での評価山への信仰と、芸術に与えた影響マオリの人々と山々との精神的・文化的な結びつき
自然面での評価自然遺産の基準による登録はない火山景観の美しさと、地質学的な価値

大きな違いは、トンガリロでは、信仰との関係に加えて、自然そのものも世界遺産の基準を満たすと認められていることです。

美しい自然があり、そこに信仰があれば自動的に複合遺産になるわけではありません。自然と文化のそれぞれについて、世界遺産としての価値が評価される必要があります。

富士山が文化遺産なのも、自然に価値がないという意味ではありません。登録ではその山が人々の信仰や芸術を育んできたことが評価されています。

【ニュージーランドの世界遺産】トンガリロ国立公園を構成する区域

トンガリロ国立公園は、主要な火山が集まる区域と、その北側に離れて位置する区域から構成されています。

構成資産(UNESCOの名称・番号)含まれる主な山・湖特徴と、世界遺産の価値を伝える要素
第1構成資産トンガリロ、ナウルホエ、ルアペフなど公園の主要部分。火口、溶岩流、噴気、火口湖などが火山活動を伝える。山々は地元のマオリの人々にとって聖なる存在でもある
第2構成資産ピハンガ、カカラメア、ロトポウナム湖など主要部分から北に離れた区域。古い火山と森林、湖が広がり、公園の自然景観の多様さを伝える。ピハンガは山々にまつわるマオリの伝承にも登場する

ナウルホエの円錐形の山容や、ルアペフの火口湖は、第1構成資産の中で見られる特徴です。一方、第2構成資産には、森林に覆われた山々と湖の風景があります。

トンガリロの世界遺産は、一つの山頂を守るものではありません。二つの区域に広がる火山や森林、湖と、それらに結びついた人々の文化を含んでいます。

中でもナウルホエは、円錐状の姿が目を引く山で地質学的にはトンガリロの火山システムの一部に当たります。

ニュージーランド北島の東側で太平洋プレートが沈み込む働きと関係していて、地下の活動が山をつくり、その姿を変え続ける。

トンガリロでは、その過程を地形と現象の両方から捉えられていて、火山景観と地質学的な特徴が自然遺産としての評価がされています。

信仰の仕方が違う?富士山への登拝と祖先として敬われるトンガリロ

踊り子ちゃん

富士山とトンガリロは信仰の仕方にも違いがあるみたい♪

富士山では、噴火への畏れから山を鎮める祈りが生まれ、やがて修行者や信者が山頂を目指す登拝へと信仰が展開しました。

江戸時代には、富士山を信仰する富士講が広まりました。登拝者を迎えた御師は、宿泊や食事の世話をし、祈祷や信仰の普及にも携わりました。山へ登る行為を、山麓の人々や施設が支えていたのです。

現在残る御師住宅や浅間神社、登拝の道は、富士山を目指した人々が、どのように山へ近づいたかを伝えます。

トンガリロでは、地元のマオリの共同体であるンガーティ・トゥファレトアなどにとって、山々は祖先とのつながりを持つ存在として敬われています。

ニュージーランド自然保護局の解説には、祖先ンガトロイランギが山々に登り、土地に名を与え、子孫の暮らす場所としたという伝承が紹介されています。山の名前や物語には、自分たちがどこに属するのかという記憶が重なっています。

そのため、山を守ることは、美しい景観を保存するだけでなく、祖先から受け継いだ関係を次の世代へつなぐことにもなります。

富士山では、登拝や巡礼を通して山と結びついてきた歴史が、トンガリロでは、祖先と土地とのつながりを受け継ぐ文化が見えてきます。同じ「信仰の対象」でも、その中身まで同じ言葉でくくることはできません。

聖なる山には登る?登らない?敬意の示し方の違い

登る?登らない?その理由
富士山の登拝山頂を目指し、祈りや修行を行うことが信仰の実践となった
トンガリロで山頂への登頂を控える地元の人々が大切にする山の神聖さに敬意を示す
トンガリロの湖や水路に入らず水に触れない山とともに聖なるものとされる水を尊重する

自然保護局の訪問者向け案内では、山頂に登らず、水域に入ったり触れたりしないことが、聖地への敬意として示されています。

例えば、トンガリロ・アルパイン・クロッシングで出会う鮮やかな湖も、美しい風景であると同時に、地元の人々が大切にする場所です。水の美しさにひかれて手を浸す行為が、その土地では望まれていないこともあります。

ここで比べているのは、富士山の信仰史と、トンガリロの現在の訪問者向けの配慮です。富士山には遠くから拝む信仰もあり、トンガリロには祖先の登山の伝承もあります。「登る山」と「登らない山」に固定して分ける話ではありません。

山を敬う気持ちが同じでも、敬意を表す行動は、その土地の文化によって変わるのです。

1993年:トンガリロの山々に文化的価値が認められた

トンガリロは、1990年にまず自然遺産として登録され、1993年に文化の登録基準(ⅵ)が加わりました。もともと続いていた人と山の関係が、世界遺産の評価に位置づけられたのです。

背景には、1992年に世界遺産で「文化的景観」を評価する枠組みが整えられたことがあります。人と自然の関わりを伝える景観には、田畑や庭園のように人が形を変えた場所だけでなく、信仰や伝承によって自然と深く結びついた場所も含まれます。

トンガリロは、この枠組みに基づいて登録された最初の文化的景観にもなりました。

僕が注目したいのは、文化を伝えるものは、目に見える建築だけではないという点です。山の名や物語、守り続ける責任にも、人々が受け継いできた文化があります。

この視点は富士山にも通じます。浅間神社や御師住宅を個別の建物として見るだけでなく、それらを山への祈りや登拝と結びつけることで、文化遺産として守る意味が分かります。

まとめ|同じ聖なる火山でも、山との関係は異なる

富士山では、登拝をはじめとする信仰と、芸術を生み出してきた歴史が評価されています。トンガリロでは、火山景観や地質学的な価値に加え、マオリの人々と山々との深い関係が評価されています。

複合遺産は、文化遺産より上の区分ではありません。何を世界に伝え、守るべき価値として認めたかの違いです。

僕がこの比較で面白いと感じるのは、「聖なる山なら登って祈るものだ」という一つの見方に収まらないことです。山頂を目指す祈りもあれば、足を踏み入れずに示す敬意もある。山の姿とともに、その土地で受け継がれてきた向き合い方を知ることが、二つの世界遺産を比べる楽しさだと思います。

参考文献
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この記事を書いた人

◇世界遺産検定マイスター
推しの世界遺産は「フィレンツェ歴史地区」。小説の中に迷い込んだかのような美しい空気感が魅力的でマーブル紙も有名。

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