赤みを帯びた岩壁に、巨大な建物の正面が彫り込まれている。
ヨルダンの世界遺産ペトラといえば、エル・ハズネの姿を思い浮かべる人も多いでしょう。岩の間を抜けた先に現れる建築は、古代都市への想像をかき立てます。
そんなペトラを水インフラの目線で見ると、少し意外な設備が見えてきます。
それは、洪水から街を守るためのダムとトンネルです。
乾燥した土地なのに、なぜ洪水対策が必要だったのでしょうか。
この記事では、水システムの中でも、水を集めて蓄える工夫と、危険な水の流れをそらす工夫に注目します。 ペトラは、水不足と洪水という二つの課題に向き合った都市でした。
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【隊商都市ペトラとは?】岩に刻まれた都市を支えたもの
ペトラは、現在のヨルダン南部にある古代都市です。ナバタイ人の都として発展し、アラビア半島や地中海方面などを結ぶ交易の拠点となりました。
岩を削ってつくられた墓や神殿の建築に加え、劇場や街路なども残っています。人々が行き交い、暮らしを営んだ都市の跡です。
正式名:隊商都市ペトラ
保有国:ヨルダン・ハシェミット王国
登録年:1985年
登録基準:ⅰ、ⅲ、ⅳ
その他:砂漠の都市を支えたのは、岩を削って築いた驚異の水インフラ。
世界遺産として評価されているのは、印象的な岩の建築だけではありません。水路、トンネル、流れをそらすダム、貯水槽などの水管理施設も、その価値を構成しています。
雨が少ない土地でも洪水は起こる
乾燥した土地と聞くと、水がほとんど流れない場所を想像するかもしれません。
しかし、雨が少ないことと、洪水が起こらないことは別の話です。
水の量を考えるときには、一年間でどれだけ降るかに加えてどれほど短い時間に集中するかが関わります。普段は水が乏しくても、まとまった雨が降れば周囲の斜面から谷へ水が集まります。
ペトラのように岩山や狭い谷がある場所では、街の中だけを見ていても水の動きは分かりません。離れた場所に降った雨が、地形に沿って流れ込むこともあるからです。
クレオさん集中して鉄砲水が降るのだな?
水は蓄えておきたいが……
水害はご勘弁願いたい(悩ましい)
ダムとトンネルでシークに入る洪水をそらす



結局、季節的な集中豪雨をどうしたんや?


洪水の流れをそらすために岩を掘り抜いて設けられたペトラのトンネル
写真:Tousleso/Wikimedia Commons/Public domain
「ダムとトンネルを作って、洪水を別の谷へ逃がしました」
ペトラの代表的な入口には、「シーク」と呼ばれる細長い岩の裂け目があります。その先にエル・ハズネが現れるよく知られた場所です。
人が都市へ入る道は、水にとっても流れ込める道になります。
ナバタイ人は、シークへ洪水が入り込むのを抑えるため、入口にダムを設けて岩を掘り抜いた約88メートルのトンネルと組み合わせました。シークへ向かう流れをダムで遮り、トンネルを通してワディ・ムドリムと呼ばれる谷の方向へ導く仕組みです。
ダムと聞くと水をためる施設を思い浮かべるかもしれません。ここで注目したいのは、水の進む方向を変える役割です。
水を遮れば、その先の行き先も必要になります。ダムとトンネルを一緒に見ると、シークを洪水から守るために、別の通り道を用意したことが分かります。
ちなみにですが、現在シークの入口で見られるダムは、古代のダムの上に1964年に建設されたものと言われています。
ペトラの公式解説でも、シーク入口のダムは、維持管理や清掃が途絶えて劣化すると、水をトンネルへそらす働きが損なわれたと説明されています。やっぱりお手入れは大事ですね!
【隊商都市ペトラ】貯水施設に水を蓄える


シークの岩壁に沿って残る水路
写真:Michael Gunther/Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0
洪水をそらす一方で、都市の暮らしには日々使う水が欠かせません。
ペトラでは、水を運ぶ水路と、水を蓄える貯水槽・貯水池を組み合わせていました。季節的な雨も集めて蓄え、雨のない日の暮らしに役立てていたのです。
水路と貯水施設には、それぞれ役割があります。水路は必要な場所へ水を届け、貯水施設は水が得られる時期と使いたい時期のずれを埋めます。水を確保するには、運ぶ道と、蓄える場所の両方が必要でした。
シークの両側にも、都市へ水を運ぶ水路が残っています。入口で洪水をそらしながら、日々使う水は都市へ届ける。同じシークの周辺に、二つの役割を持つ設備があったのです。
洪水をそらした先にも貯水施設などがありました。危険な流れから都市を守る工夫と、水を暮らしに生かす工夫は、地形の中でつながっていました。
まとめ:通り道から世界遺産の見え方が変わる
世界遺産マイスターの目線でペトラを見ると、水管理施設が世界遺産の価値に含まれていることに納得できます。
岩に建築を刻む技術は、目に見える形で強く印象に残ります。



水路や貯水槽は映えないから目立たない。
でも大事なんやで。
ペトラの水管理は、厳しい自然条件の中で人々が暮らすために、地形を読んで設備を組み合わせた知恵を伝えています。
エル・ハズネへ続く道も、「美しい建築へ向かう通路」として見るだけでは、気づけないことがあります。
その入口では洪水の流れをそらし、側面の水路では都市へ水を届ける。同じ場所で、水との異なる付き合い方が重なっています。
ペトラを支えたのは、水を手に入れる力だけではありません。
必要な水を迎え入れ、危険な流れには別の道を用意する。その両方を考えたところに、この都市の水インフラの面白さがあります。
- UNESCO世界遺産センター「Petra」
世界遺産の登録情報、評価される価値、水管理施設の位置づけ。 - Visit Petra「Al Mudhlim Tunnel and Bab as Siq Dam」
シーク入口のダムと迂回トンネルの役割、長さ、維持管理、現在のダムの建設年。 - Visit Petra「シーク」(アラビア語)
シークの地形と、両側に設けられた水路の解説。





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