岩場に沿って建物が並び、そのすぐそばから幾筋もの水が流れ落ちる。
イランのシューシュタルには、街の中に滝が現れたような景観があります。
写真を見ると水の勢いに目がいきます。でも少し疑問……
踊り子ちゃんこの水はどこから来て、何に使われていたの?
実は流れ落ちる水の背後には、川から水を引き、水車を動かし、街や農地へ届ける仕組みがあります。
今回注目するのは、川から導いた水を、水車の動力や街への給水、農業へとつなぐ仕組みです。滝のように流れ落ちる水を入口に、堰や水路、トンネルがそれぞれどんな役割を果たしたのかを見ていきます。
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そんなにすごい?世界遺産シューシュタルの歴史的水利施設とは?
シューシュタルの歴史的水利施設は、イラン南西部にある世界文化遺産です。2009年に登録され、登録基準は(i)(ii)(v)が認められています。
- 堰や水路トンネル、橋、水車施設などが組み合わさっていること
- 川の水を都市への給水や農業、水車の動力などに利用してること
- 大規模な仕組みだったこと
UNESCOによると、現在につながるシステムの骨格は紀元3世紀に整えられました。その基礎には、紀元前5世紀にさかのぼる可能性のあり、より古い水利技術があったとされています。
正式名:シューシュタルの歴史的水利施設
保有国:イラン・イスラム共和国
登録年:2009年
登録基準:ⅰ、ⅱ、ⅴ
その他:約2000年前の「取水・導水・分配・利用」が一体となった、古代の総合水インフラ。
ただし、目の前の施設がすべて同じ時代に完成してから、そのまま残っているわけではありません。その後も改修や修理が重ねられてきました。ここでも、水を使い続けるための仕事が歴史をつないでいます。
なぜ街の中で水が滝のように流れ落ちるのか
シューシュタルの水利用を支えたのは、カールーン川です。その水を分ける主要な水路の一つに、ガルガル水路(ギャルギャル運河ともいう)があります。
この水路からトンネルを通して水車施設へ水が導かれ、その先で水が下流の水域へ流れ落ちます。写真で目を引く滝のような景観は、水路やトンネル・水車施設とつながっています。
つまり、水が落ちている場所だけを眺めても、この施設の働きは分かりません。
どこで川から水を取り入れたのか?
どの道を通し、途中で何に使い、その後はどこへ流したのか?
その順番で見ると、迫力のある景観が水を利用する設備の姿として見えてきます。
僕が現場で設備を見るときも、目の前の機器だけでなく、その前後が気になります。水の出口が見えれば、今度は入口を確かめたくなるんですよね。
川の水を水路へ導く堰の役割
シューシュタルには、川の流れを分ける施設や、橋と堰の機能を組み合わせた構造物があります。ミーザーンの取水施設やシャードルヴァーンの大堰などが、水利システムを構成しています。
ここで、堰の働きを少し整理してみます。
堰は、川の水をせき止めて水位を上げ、必要な方向へ水を取り入れやすくする施設です。
川の水をそのまま流していると、水位が低くて水路へ十分な水を引き込めないことがあります。そこで堰によって水位を上げることで、農業用水や生活用水などを水路へ導きやすくします。
シューシュタルでは、この①水をせき止める②水位を上げる③必要な場所へ導くという仕組みが、水路や運河と組み合わされ、大規模な水利用システムをつくっていました。
シューシュタルの各施設も、それぞれの位置と役割を組み合わせて見る必要があります。「堰があるから水が止まる」という理解だけでは、街へ水を届ける働きを捉えきれません。
水をせき止めることが、その先へ水を流すことにつながる。ここは、水インフラの面白いところだと思います。
水の落差を使って粉をひく
水路から導いた水は、水車による製粉にも利用されました。水の流れを機械の動きへ変え、穀物を粉にする仕事を支えていたのです。
水車を動かすうえでは、水があるだけでなく使える水量や落差が重要になります。
高いところにある水が低いところへ流れる。そのときのエネルギーを回転する力に変えることで、人の手だけでは大変な仕事を機械に担わせることができます。
ここでいう水車の動力利用と、水力発電は区別したいところです。シューシュタルの歴史的な製粉施設では、水の力を機械の仕事に利用していました。
現代の設備では、電気で電動機を回す場面が身近です。でも、水が機械を動かし、その機械が暮らしに必要な仕事をするという関係は、十分に想像できます。
街の先には、農地へ続く水の道があった



結局よくわらないけど、水を堰止めて水車を動かしたってこと?
それだけじゃありませんよ。水は街の南側の平野へも導かれ、農地や果樹園を支えました。
UNESCOは、ガルガル水路が都市の形成と、かつて半乾燥地だった広い平野の灌漑を可能にしたと説明しています。
この広がりが、シューシュタルを考えるうえで大切です。
一つの水車を動かせれば完成、という設備ではありません。
川から取り入れた水を、街や農地を含む広い範囲で利用する仕組みでした。上流の施設だけでなく、下流で水を必要とする場所まで視野に入れる必要があります。
写真では滝のような部分に目が向きますが、その先にも暮らしが続いていたんですね。
水インフラの現場から見る「流れをつなぐ技術」
僕はダムや水門などに関わる電気工事に携わってきました。電源設備や制御設備を扱っていると、その機器の動作が、先につながる設備にどう影響するかを考えます。
シューシュタルを調べていても同じようなところが気になります。



取水箇所が詰まったら水路はどうなるの?
トンネルの土砂も同じ。修理ってできるものなのかな?
一般に、水を運ぶ設備には、土砂やごみの除去、漏水や損傷の確認などが欠かせません。構造物をつくる技術に加えて、働く状態を保つための手入れも必要です。
シューシュタルでも、時代を通じて維持管理や改修が行われてきました。その一方で、UNESCOは、当初のシステム全体と比べると機能の一部は失われ、灌漑や給水では機能が比較的よく保たれているとしています。
古い設備が全部そのまま動いていると考えるのは少し違うように思います。何が残り、何が変わり、どの役割が受け継がれているのか……その違いまで見ることで長く使う難しさも伝わってきます。
世界遺産として評価された「シューシュタルの歴史的水利施設」の全体像
世界遺産検定マイスターとして注目したいのは、評価の対象が個々の建造物にとどまらないことです。
登録基準(i)では、大規模で多様な水利施設を組み合わせた創造性が評価されています。(ii)では、異なる地域や時代の技術が交流し統合されたこと。(v)では、半乾燥地で人々が暮らし、土地を利用するために発達した水利技術の全体像が重視されています。
堰、水路、トンネル、水車、農地。それぞれを結びつけるのは、水の流れです。
アウクスブルクでは用途ごとに水を分け、エルヴァスでは地形を越えて水を運びました。シューシュタルでは、川から導いた水を複数の用途につなげ、街と周辺の土地を支えています。
同じ水インフラでも、向き合う地形や暮らしによって、仕組みの姿が変わる。世界遺産を通して比べると、その違いが面白いですね♪
まとめ:滝の向こうに街を支える仕組みがある
シューシュタルの滝のような景観は、川の水を導き、利用し、下流へ送る水利システムの一部です。
水の勢いを楽しむだけでなく、その入口と出口、途中で果たしていた仕事を考えると、見えるものが増えてきます。
もし現地を訪れることができたら、まず水が流れ落ちる景色を眺めたいです。そしてきっと、その後は「この水路、どこにつながっているんだろう」と、上流の方ばかり気にしてしまうと思います。





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